ちょっと、ちょっと、話を聞いてくれ。
あのさ、俺さ、昔から紙が苦手なんだよ。紙の野郎が大の苦手なんだよ。
お前さん、いきなり何言ってんだこいつと思ったね。いきなり現れて、紙が苦手とかわけわからんこと言いやがってと思ったね。
たしかにお前さんの言い分もよく分かる。
いきなり話を聞いてくれとか、紙が苦手だとか言う野郎は怪しすぎるし、なんなら通り魔みたいで、めちゃくちゃ怪しい。
俺が逆の立場だったら、大声上げてるね。
そして、シャツとパンツを脱ぐ。
襲おうとしていた相手が、いきなり服を脱ぎだしたらビックリするだろ?
ビックリさせて、その隙にイノシシのような速さで逃げるってわけさ。
おっと、話がそれてしまったな。
俺は不審者かもしれないが、害はないし、危害をくわえる気もない。
というか、害といえば紙の野郎だ。紙の方が100万倍ひどい。
まあいい。ちょいとばかし、俺と紙にまつわるエピソードを聞いとくれ。
紙のとのはじめての出会いは小学校だった。
そりゃあ、奴も最初は友好的だったさ。南国アイス白熊みたいな真っ白な顔で、どうぞご自由に使ってくだせえっ、見てくだせえって感じでな。
最初は、俺もコイツと仲良くできそうだって思ったんだよ。
だってさ、ホワイトだよ。信用するしかないじゃん。
信用情報も白だったら、住宅ローンも通過だろ。それと同じで、白だったら無条件に信用しちまう。
でもよ、あいつ何の連絡もなくいきなりいなくなんだよな。学校から一緒に帰ってたいはずなのに、家に着くといねえんだ。
ほんとうに困った野郎なんだよ。
え、なにが困るのかって?
あいつさ、先生からの情報を預かってんだよ。で、その内容を俺は知らないわけ。守秘義務ってもんだろうな、紙しか知らねえ何かがあるんだよ。
でもさ、なぜかお母さんは俺が情報を持っているとかんちがいして、こう言うんだよ。
「先生からなにか預かっているもの、あるでしょ?」
いやいやいや、なにも預かっていねえよ。俺が預かっている情報なんてねえよ。先生からの情報は紙が預かっているにきまってるんだからさ。だから、俺もこう返すしかないんだ。
「俺はなにも預かってないよ。」
でもお母さんも思い込みの激しいところがあるから、また聞いてくるわけさ。
「預かってないわけないでしょ。紙はどこ?」
本当、しつけえよな。
知らないものは知らないからさ、俺もこう言うんだよ。
「どっかにいった。」
そうすると、お母さんはゴリラみたいに鼻の穴を大きくして、犬みたいにハッハッしながら、こう言ってくるわけさ。
「紙が勝手にどっかいくわけないでしょ!嘘はつかないで!!」
もうさ、お母さんもヒステリーとしか言えねえよな。俺は事実を伝えてるだけなのによ。
もうこうなっちまったらなにも聞いちゃくれねえ。ゴリラと犬のキメラアントになると、お言葉が通じなくなっちまうんだよ、俺のお母さん。
もうどうしようもないよ。
で、お母さんからは逃げるしかないんだが、その時に役立ったのが不意を突く戦法さ。
シャツとズボンを1秒で脱ぐと、お母さんはびっくりして、「あ゛ぎぎぎぃ゛い゛い゛」と王を腹から生みだしそうな声を出すんだけど、その隙に逃げるってわけさ。
で、なんで紙の話をしてるかって?
なんか会社で書類を提出しろとかって言われたんだよ。
しかも、紙の野郎またどっか行っちまったみたいだ。20年間まったく成長しない困ったやつだよ。また俺が怒られちまうよ。
もし会社の奴らに怒られちまったら、シャツとパンツを脱いで、イノシシのように逃げるしかないよな。
はあ……。