あまり音楽は聞かないのだけど、THA BLUE HERB(以下、TBHR)だけは高校生の時に「未来は俺らの手の中」に出会ってから、ずっと聞いている。
今は音楽をじっくり聞く時間もないので、TBHRも、新しいアルバムが出るたびに、聞いて「何も感じなかったら卒業しようかな」とも思う。
でも、曲を聞くと「うへーっっ、すっげっーーー!!」となり、「やっぱりTBHRはすげーわ!!一生ついていきます!!」とあっさりと手を返してしまう。
TBHの曲は、惨めさ・情熱・怒りと抒情性が融合していて、自分の好きな感情が曲に入っているから離れられないんだろうなと思う。
さて、TBHのill-bosstino(以下、BOSS)とDj hondaが組んで、『KINGS CROSS』というアルバムが販売されたのだけど、これもすごかった。
CDを聞くまでは、いつも通り「これで最後かな」と思っていたのだけど、アルバムを聞き始めた瞬間、熟練の職人がたこ焼きをひっくり返すようにくるんと手のひらを返してしまった。
このアルバム、とにかく熱い。Dj hondaの重いビートとBOSSのリリックとフローがバチバチにぶつかりあって、ひとつの青い炎になっているようなアルバムだ。
TBHRの直近の2作が哀愁の濃いアルバムだっただけに、この変わりようにはびっくりした。1枚目や2枚目のアルバムのようなセルフボースティングのような感じ。かっこいい。最高。
ちなみに、1枚目や2枚目のアルバムがどんな感じかというと、creepy nutsのR指定が分かりやすく述べているので、引用させていただきます。
そこで1stの『STILLING, STILL DREAMING』から聴き始めたんですけど、それは再発仕様だったんで、それまでのシングルも収録された2枚組で。でも、正直最初にTBH聴いた時は、どのラップが上手いのか分からなかったんですよね。それこそ、KZさんの彼女やないけど、「とりあえず怒ってはるな・・・・・・」と(笑)
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そう、1枚目と2枚目は、なんか怒っているようなアルバムなのだ。
そして、『KINGSS CROSS』も、「とりあえず怒っている」に近いアルバムだった。
それは4曲目「KILLMATIC」で歌われている、
“流行のいろんなラッパーたち聞いて 最後にこのアルバム聞いて死ね”
『KINGS CROSS』
というパンチラインからもわかる。
BOSSの年齢は50歳である。
一般企業で言うと、副部長クラスもしくは出世していたら部長。
それくらいの役職についている人が、ヒップホップシーンに対してこれだけ荒ぶれるというのは、怒っているというかもはや事件である。昂りすぎている。
僕は30歳を超えたばかりなのけど、どんだけムカついたとしても「お亡くなりになられてはいかがでしょうか」くらいのテンションまでしかいけない。
年齢とともに感情に任せて怒るのが難しくなってしまったのだ。
それは世間の目が気になるからだったり、怒りの言葉が自分へのブーメランになるからだったり、怒っても解決しないからだったり。理由は様々だ。あと、怒るのはシンプルにめんどくさいし、疲れる。
いずれにせよ僕は怒ることができない。
でも、BOSSはやってのける。
50歳というと信長の時代だったら人の寿命でもあるが、その年齢で「怒る」をできるBOSSはやっぱりレジェンドである。
そして、『KINGSS CROSS』というアルバム、BOSSにしてはめちゃくちゃ分かりやすく韻を踏むリリックが多い。
小節の終わりで韻を踏み、踏んでる所にアクセントをつけていくスタイルを使っている箇所がこれまでの曲よりも増えている。
BOSSにしては珍しい。
これもR指定の解説がわかりやすいので引用させていただきます。
BOSSさんみたいな語り口調の近い、畳み掛ける言葉の中に無数に韻が散りばめられているスタイルのラップが、最初は理解できなかったんですよね
『Rの異常な愛情』
そう、TBHRにしてはオーソドックスな韻の踏み方って珍しいんですよね。
このテクニックのおかげで熱量が伝わりやすくなっているってのはあると思う。
このアルバムの最高な所として、BOSSの覚悟がめちゃくちゃ入っているんですよね。
ラッパーとして、孤高を貫いて、自分のやり方で高みに登っていくぞという信念がアルバムの至る所に溶け込んでいる。その熱量が凄まじい。
とくに9曲目の「UNCHAIN」は最高だった。
余白の少なくなりつつある窮屈な世の中で生きる人に対して、「俺は好きなようにやってきたからここまでこれた。お前も好きにやれよ。俺はこれからもやっていくぜ」と強いメッセージが込められた曲なのだけど、曲を聞くのに没頭して自分ごとのように感じてしまった。
ちょうど「誰かから与えられたあるべき姿に囚われて、自分の心の声を聞けないというのがここ数年だったな」と考えていた時だったので、同じようなテーマのこの曲がぐさりと刺さった。
もちろん色んなことのバランスは取らないといけないが、しがらみを忘れて、本当にやりたいことを考える必要があるなと考えさせられた。
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この『KINGSS CROSS』というアルバム、「UNCHAIN」だけではなく全曲にわたってBOSSの熱量が込められている。世間に自分の思いを叫ぶ、これこそHIP HOPという感じだ。
BOSSの熱量に触発されて、自分もやる気が出てくるようなアルバムだった。
色々と人生に悩んではいるものの、自分のいるべき場所で、自分のペースで、熱量を持ってやりたいことをやっていきたい、「やりたいことに世間は関係ねーな」と思えた。
アルバムに収録されている「COME TRUE」には、“1日1cmずつ進む”というリリックがあるが、この「1歩ずつ進んでいく」という精神で厳しい現実に立ち向かっていきたい。
