不注意なADHDにとって、総務や経理のような事務系の仕事は天敵というイメージがある。
もちろん事務職といっても会社によって業務内容は異なるので、業務量がすくなかったり、仕事と自分の興味がマッチしたり、ADHDの不注意特性が弱かったりすれば、なんとか事務をこなせる人はいる。
ただ、「ミスをしないのがスタートライン」という減点法の事務職は、書類の記入漏れや数字の打ち込みなどを間違えやすい多くのADHDと合わないことが多い。
「事務職のADHDはどのように仕事をこなしているのだろうか?」
そんなことを疑問に思ったので、公務員の事務職で働いているLemonさんにお話をうかがってきた。
数字を扱う仕事でミスが多いのが悩み

Lemonさんは、現在、主に数字を入力した書類の発行や入金処理などをする業務を担当している。お金に絡む仕事なのでミスには厳しい。
業務の性質は民間企業でいう経理の仕事に近いが、公務員の場合、税金も絡むことなので、民間企業よりもさらに正確さが求められる。
「ミスをするのはいけないと思ってるので自分でミスを発見するようにしています。自分でのチェックを増やしたり、紙にチェックを入れたり。それでもミスはなくならないのでキツイのですが、綱渡りでなんとかやっています」
不注意によるミスをチェックを増やすことで解決するのはなかなか骨が折れる。人よりも時間がかかるので、仕事の時間も増えるし、完成も遅くなる。根気も必要になる。
インターネットや発達障害の本を読むと、「ミスは同僚にチェックしてもらおう」と書かれることが多いが、Lemonさんの職場でそういった対策は難しいのだろうか。
「僕はもともとミスが多いのでチェックする側の負担が高くなってしまいます。同僚に負担をかけるのが申し訳なくて、チェックをお願いする時も気が気じゃありません。また大量に自分のミスが判明するんじゃないかって不安でたまらないんです」
公務員であっても民間であっても、障害者雇用でもなければ、同僚に一方的に負担を求めるのは難しい。ミスを見つけようと思ってチェックするのはADHDでなくても気を張るので、チェックする側の精神的な負担が大きくなるからだ。
さらにLemonさんの職場は、人間関係もいいとは言えない。
「いまの部署の人は性格と口調のキツイ人が多いんです。ミスがない時でもガツーンと攻撃的なことを言われたりするんです」
そして無理をしながら業務を行う中、先輩の引継業務でキャパオーバーになったLemonさんは精神的に限界となり、かねてから疑っていたADHDの診断を受けることになる。
引継業務の後処理でダウンし、ADHDと判明

LemonさんがADHDと分かったのは2021年の夏。
同僚の異動に伴う引継業務の中にあった負の遺産の処理で精神的に追い詰められ、落ち込みやイライラが止まらなくなり、抑うつ状態に陥ったのがきっかけだった。
「精神的に落ちたことがきっかけですが、もともとADHDではないかと自分を疑っていたのでちゃんと検査しようと思って病院に行きました。また、職場でのミスの指摘に激昂してしまったこともありました」
もともと1人でいるときは抑うつや怒りの感情にとらわれて頭の中がグルグルしやすかったものの、人前では押さえることができていた。
ただ、ストレスでメンタルが限界になり、人前で感情を抑えることができなくなってしまったのだ。
寝ても夜中に起きてしまう“中途覚醒”も出始めていた時期だったこともあり、「メンタルが限界に近づきつつある」と危機感が強まり、病院に行くことを決意した。
また、Lemonさんは趣味で柔道や筋トレを行っているが、このときばかりはまったく楽しめなかったという。
「無理やり死にそうになりながら筋トレだけはしていました。ただ、筋トレは少しスッキリはしても情緒の不安定さは解決できませんでした」
こうなると二次障害を発症して休職まで行きそうなものだが、ADHDの診断が降りたこと、引継業務が落ち着いたこともあり、Lemonさんはすこしずつ持ち直していった。
転職よりも、まずは今の職場を続けることに

ADHDの診断を受けたLemonさんは、まずは妻と上司に報告した。
「診断が出ていろんな人に迷惑をかけるのが申し訳なくて、妻と上司には相談しました。100%の理解は得られませんでしたが、理解しようと寄り添う姿勢を見せてくれたのがうれしかったです。すごい恵まれたなと思っています」
職場では上司だけがLemonさんがADHDであることを知っている。
実は、Lemonさんは「自分には向いていない公務員で40年間勤め上げることができるのか不安」という理由で転職を検討していた。
ただ、引継業務が終わる目処が立ってきたことと、上司もADHDということを理解しようとしてくれたことで、とりあえずは今の仕事を続けようと決めた。
「ライフハックの知識を増やして、まずは今の仕事をやっていきたいです。そのうえで選択肢を増やすという意味で資格の勉強もやっていきたいなと思っています」
堅実な性格なLemonさんは、ADHDとどうやって付き合っていくか、これからも試行錯誤しながら人生を進めていく。
