発達障害

「彼岸花が咲く島」の感想。ネガティブな価値観も大切にようと思った。

2021年の上半期に芥川賞を受賞した「彼岸花が咲く島」を読んだ。

この小説をひとことであらわすと、ディストピアにおける外側の物語。

ディストピア小説は、自由を抑圧・管理された世界で生まれた主人公が、世界を統治する権力側に対して疑問に思うことからストーリーがはじまる。

主人公が自分と同じく政府に疑問に思っている人物、もしくは政府への疑問を深める出来事に出会うことでストーリーが展開していき、最終的に主人公と政府が対峙して現実を変えられずに終わる。世界観としては階級社会であることも多い。

自由の制限された世界の人間の悲惨さを通じて、自由や人権の大切さが描かれるのがディストピア小説の王道だ。

さて、「彼岸花が咲く島」の話に戻すと、この小説は王道のディストピア小説とはちょっと変わっている。舞台設定として、2重構造になっているのだ。

物語のメインである主人公たちが暮らすユートピアな島とその島の外側にあるディストピアな世界がある。

記憶喪失である少女の目を通じて、徐々にメインの島の様子が明かされていって、最後にその外側であるディストピア世界が明かされる。

ユートピア世界はディストピア世界のおかげで成り立っていて、世界は不安定だけど、その不安定な世界に対して「個人で判断して、どう立ち向かうか」ということが希望とともに描かれている。

ユートピア世界は、性格のいい村人たちが支え合っている社会だ。

ただ、女性が統治する島で、伝統的に歴史の情報が一部の女性にしか見られないように制限されている。

主人公の少女は、歴史を知りたい男性と友人になり、その関わり合いを通じて、島の伝統に疑問を持つようになる。

「自分が情報を知れる立場になったら友人に歴史を教える」ことを約束するのだけど、歴史が一部の人にしか明かされない理由を知って、友人との約束をどうするか葛藤する。

ただのユートピア世界が描かれているだけではなく、伝統への向き合い方や伝統で個人の自由が犠牲になっている状況が描かれているのだ。

また、少女のいるユートピアな島は、外側にあるディストピア国家と島にしかない希少品を貿易することで世界を保っている。

ディストピア国家は、弱いものや少数派の属性を持った人たちを排斥する国家で、とても大きくて武力もある。

ユートピアの島は小さいので、ディストピア国家が攻めてきたらひとたまりもない。

希少品を狙われて、ディストピアの領土にされてしまい、平和な暮らしがなくなるかもしれないという不安に晒されている。ユートピアは不安定の上に成り立っているのだ。

そして、作者の世界への疑問や個人としての尊重を求める思想が、作品にわかりやすく反映されていて、色々と考えさせられる。

ジェンダー、セクシャルマイノリティ、外国籍……

作品全体の世界観は、さわやかではあるものの、作者の今の日本に対しての強い疑念、恨みのような黒い炎が溶け込まれている。

このことは、芥川賞を受賞したときのスピーチからもよくわかる。

作者は女性で台湾人だ。男性で日本人である僕には想像つかないような色んな苦しみを受けてきたのだと思う。

でも、そんな僕でも分かるくらい、作品のさわやかな世界観に包み隠しきれない、作者の強い感情がこの小説には載っていると思った。

「この人は世界に絶望したことのある人だな」と感じられるような熱量が文章から滲み出ていた。

多数派からはみ出ていて、能力もなく、「人生は苦しみばかりだし、人は分かりあうことができない」と考えている僕は、恨みや辛みを発端とした黒い炎が宿る文章が好きだ。

文章の中に宿るマイナスな感情に、自分の中にあるマイナスの感情が引きづり出され、共鳴させられることで、マイナスの感情を発散できて、気持ちいいというか癒されたような気持ちになるからだ。

世間の多くの人には認められない、ダメなものとされるネガティブな感情、それを持っていてもいいのだと認めてもらえたかのように思えてくる。

だから「彼岸花が咲く島」はとてもよかった。

さらに「彼岸花が咲く島」には希望も描かれている。

最終的には、不安定な世界でも人を信用して、個人を尊重してやっていこうというところに着地するのだ。

これも自分の「人を人として向き合いたい、でも自分の考えは尊重されたいし、他人の考え方を尊重したい」という考え方が、肯定されたようでうれしい気持ちにもなった。

人を選ぶ物語ではあるものの、世界が嫌いな自分としては癒されて前を向けるという素晴らしい体験をできた小説だった。

現実世界は、なにも変わっていない。

自分の持っている世界へのネガティブな価値観が、人に認められたこともない。

ポジティブな価値観も、認められることはすくない。

世間からズレた考え方は捨てた方がいいのか、変えた方がいいのかと15年以上は悩んでいるし、おそらくこれからも悩み続ける。

ただ、こういった物語に触れると、自分の持っている価値観は大事にしようと改めて思える。そういう意味で、読んでよかった小説だった。

 

 

ABOUT ME
たんぺい
ぐんま在住。30代。 「日常をちょっとだけ楽しむ」をモットーにブログを書いています。 ブログのメインテーマ:ぐんま、雑記、発達障害、サウナなど

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